その写真は、彼の作品展の中でも
数多くある作品のうちの一枚になるはずだった。
メールが届く。
これ、告知用の写真にしたいんだ。
とは?
新聞、雑誌に作品展の案内の写真を掲載してもらうんだけど
その写真に、なつきさんを撮った写真を使わせて欲しい。
そもそも、OKした時点で
その写真は彼のものだと思う覚悟で望んだから
いいですけど。。。
大変な事態になってますね。。。
ま、誰も私と思わないからいいけどね。
新聞や雑誌に、でかでかと掲載された
私の一部を見て、はぁ。。。とため息をついた。
彼がアート的で魅力的だと語った私のそれは
私のコンプレックスの場所でもある。
彼の作品展は、すごくエロティックでおしゃれで
私の一部がそれを飾っているのが、誇らしかった。
メインの写真になってしまったその写真は
とても存在感があった。
それからどれくらいたっただろう。
再び彼から連絡があった。
もう一度、撮らせて欲しい。
あれが最後だといったでしょう?
そうだけど。
ダメ?
アートっちゅー、崇高な世界はよーわからん。
しかし、彼らはアートを一生懸命語り
必死に、真摯に取り組み続けている。
私は、仕方がない。。。とあきらめた。
一体私の何が
彼のシャッターを切らせたくなるのかわからんが。
ラブホテルに行きましょう。
は?
何で。
撮影は戦いです。
モデルとカメラマンの。
他に、誰もいないところで撮りたい。
私には他にも写真を撮る趣味を持つ友がいる。
みな同じことを語る。
わかりました。
とはいえ、誤解を招きそうなシチュエーション。
旦那にはモデルになることは内緒にした。
ここまできたら、なんでも来い!だ
毒食らわば、皿までだ。
彼と一緒にホテルに入る。
彼はおもむろにカメラをベッドに置き
私の両腕を、両手で押さえつけた。
うわ。
やべぇな。
私は、自分がどんな身体か知ってる。
少しでもどこかを愛されたら、終わり。
彼の写真はエロティック。
こんなのも、仕方がないのかもしれない。。。けど。
押さえつけられたところで
私が変化することなんて、ない。
まっすぐ、彼を見る。
彼は動じずに、そのままカメラを持ち
数回シャッターを切った。
レンズを見られるほど、慣れていない私は
あさっての方を見た。
なつきさん。
俺を見て。
視線を送る。
正直、いっぱいいっぱい。
彼はカメラをまたベッドにおいて
私の腕を再び押さえつける。
彼は、少しずつ顔を近づけてくる。
どういうこっちゃ。
これも演出なのか?
一対一の対決だと彼は語ったが
訳がわからないぞ。
とりあえず、感じやすい身体だとばれた時点で
私の陥落は決まる。
そうなるわけにはいかない。
私は顔をそらした。
彼は、私の耳元付近に顔をうずめた。
なんなんだ。
撮影。。。
どころじゃねぇよ。
私の体のことがばれたら困る。
とにかく、この状況から逃げねばならぬが
撮影の演出だといわれれば困るし。
なつきさん。
俺のこと、嫌い?
はぁ。。。
どうして、また、こんなことになってしまったのか。
そんなに隙だらけの馬鹿女になっていたのか。
歳も30も過ぎてしまったのに
私は相変わらず、馬鹿な女だ。
嫌いじゃないですけど
そういう問題じゃないですよね。
撮影しないの?
撮るよ。
彼はまた、カメラを手に持って
撮影しだす。
レンズを見ろというから、見たが
こっちは緊張感丸出し。
手の指を絡めながら、またも押さえつけられる。
なつきさん。
ったく、男って、しょーもねー生き物だ。
何がアートだ。
馬鹿。
キスしていい?
いや。
俺じゃダメ?
とりあえず、あんたの奥さんも知り合いだから。
貴方だから、ダメ。
こんな押し問答?を数回繰り返して
ついに彼が業を煮やして言った。
なつきさん。
普通なら、ここまで来たら堕ちるよ。
馬鹿な男だ。
私がそんなタマだと思ってるなんて。
あっそう。
残念ね。
もう、いいかな?
なつきさん、まじめだね。
久しぶりにそんな人に会った。
馬鹿を言え。
っつーか
もうちょっと順を踏んで考えてくれないと
濡れたものも乾くわね。
そんなことを思いながら
私は悔しいから、帰ろうとは言わない。
撮影しないの?
もう、撮る気なくなったよ。
そう。
………帰ろうか。
そうだね。
やっと、あきらめてくれたか。
そう思ったのが、彼に伝わった気がした。
相手を間違っている。
こっちは雰囲気に酔って、陶酔できるタマじゃねぇんだ。
そんな遺伝子は、母親の胎内においてきたんだよ。
泣きも叫びも騒ぎもせず
ただ、撮影したいという
彼の願いを聞こうとしているという態度に徹した
色気のない私に
彼の勃ったものも、萎えたのだろう。
撮影を理由にホテルに連れ込み
襲うとするとは、最悪な男だな。
よくわかんねぇけど。。。
何事もなかったように、車に乗り
私を家の近くで降ろしてくれた。
次の作品展に私の写真が展示されることはなかった。
彼と今ホテルに行けば
私はあっけなく陥落している気がする。
もう今は、あの強い女はいない。
だからなに?とあっけなく
相手の勇気を、平気にへし折る女はいない気がする。
私は、男のそんな純情?を折るときは
無敵の鬼畜になれる。
何度、「どけてよ」と平静に言ってきたかしらない。
だけど。
今は女の子になるのかもしれない。
私の中の女性性が、フルパワーで開花しているから。。。
とはいえ。。。
主となって欲しい方に断らずに
撮影に挑むこともないから
結局大丈夫なのかなぁ。
世の中にはカメラを持った
ただのエロ野郎がいるもんだ。
いい勉強になった。とも言えるけれど
彼はある程度は、私をアートとして捉えていたはずなんだけどね。
だけど、彼の写真はおしゃれで個性的で好きだ。
もう二度とモデルになることはないけれど
結局、次の彼の作品展を
しれっと何もなかったような顔をして見に行くのは
確かだったりするから
やっぱり、私は馬鹿な女なんだろう。